不動産コンサルティング(土地活用・売買)の教科書
「不動産コンサルティング(土地活用・売買)の教科書」
第1章 土地活用の基礎知識
もし土地活用をしなければ、固定資産税や都市計画税の他、場合によっては巨額の相続税が発生してしまう。
相続税は被相続人の死後10ヶ月以内に現金で支払う必要があり、物納という選択肢も容易ではない。
土地活用を通じた適切な納税対策や節税対策をしなければ、土地は大きな負債となり、土地所有者を苦しめることになるのだ。
では、土地活用するにはどうすれば良いか。
特に大切なのが次の4つの視点である。
■市場的条件から見た土地活用
土地に建物を建てて貸す場合、賃貸需要に対する市場分析が不可欠だ。
メディアは賃貸の供給過剰ばかりを報道するが、例えば東京都のワンルームマンション平均空室率は1.53%(2019年)である。
ただし、人口集中地区が賃貸経営にとって一律容易とは言い切れない。
間取りや家賃、広さなど、居住者ニーズを丁寧に分析することが大切だ。
■物理的条件から見た土地活用
土地の物理的条件は建築物のボリュームや工法、即ち建築コストやその後の収益性を左右する。
面積や土地形状が重要なことは言うまでもない。
例えば共同住宅なら避難通路や駐車場などが必要だが、正方形の土地より長方形の土地がレイアウトしやすい。
また地盤や高低差、日照や騒音なども見落としてはいけない物理的条件と言える。
■法的条件から見た土地活用
土地活用を計画する場合に適法かどうか、役所での事前調査は必須である。
用途地域や消防法、その土地が農地であれば農地法の他、自治体によってはワンルームマンションを規制する条例等もあるため、法的確認はとても重要だ。
■投資的条件から見た土地活用
投資として成り立つか、定量的な物差しを持つことが大切である。
単純なキャッシュフローだけでなく、FCR(その投資から実際いくらの収益が発生するか)やIRR(売却や解体まで含めた全期間の利回り)などがそうだ。
しかし、それ以上に大切なことがある。
何をしたいか、なぜしたいかの投資の目標と目的をはっきりさせることである。
本章のまとめとして、土地活用の選択肢は集合住宅に限らず、駐車場や店舗など様々ある。
どのような選択をするにせよ、多角的視点と定量的物差しを引き出しとして持つこと、またはそうした引き出しを持ったパートナーを味方にすることが肝要だ。
第2章 不動産投資の基礎知識
■不動産投資手法の分類
投資家がとるべき手法は利回り、投資規模、節税など、重視する項目により様々な選択がある。
どのような方法であれ、利回りはリスクとトレードオフの関係にあることを留意しておくべきだ。
人口増を期待できる地域であれば売却益が見込めるため、少し低い利回りや高い物件でも買おうという投資家が現れる。
一方、将来人口減となる地域の不動産を売却するなら、高利回りが必要だ。
その上で、物件利回りだけに依存し過ぎた不動産投資だと、空室損や修繕費負担が過大になった場合に収益率が落ち込むだけではない。
いざ売却したいと思っても、買手が付かない事もあり得ることを理解しておくべきだ。
また、不動産投資に融資は付きものだが、フルローンやオーバーローンといったレバレッジを利かせた投資がもてはやされる傾向にある。
だがレバレッジは魔法の杖ではない。
予想外の空室率や修繕費が発生した場合、レバレッジの大きさはそのまま負の方向へ大きなインパクトが伴うことも忘れてはならないことだ。
何れにせよ、表面利回りだけで判断するのではなく、キャッシュフローに加えIRR(内部収益率)や担保と市場価格のギャップ把握など、ミクロな計算や分析が重要と言える。
■マクロ分析と投資判断
投資判断を行う場合、市場がどう変化するかのマクロ分析も大切である。
その手法の1つとして「フィッシャー・ハドソン・ウイルソン・モデル」がある。
営業利益が上昇すれば物件価格は上昇する。
需要が減れば賃料が低下する。
物件価格が開発コストを上回れば、新規の物件供給は減る。
こうした長期的市場動向の分析から、投資を行う上で得られるヒントはたくさんある。
マクロ分析の手法には,賃貸市場、資産市場、建設産業、ストック調整の4つのループに視点をおいた「ウィートンの不動産市場四象限モデル」という手法などもある。
他には、日本の大学教授が研究した
・景気回復:物件取得
・景気の山:物件入替え
・景気後退:不良資産購入
といった景気循環に応じた投資戦略手法などもある。
こうしたマクロ分析とミクロ分析をかけ合わせ、投資判断精度を高める努力が求められる。
第3章 不動産投資のメリット・デメリット
■不動産投資のメリット
・定期的な月収とキャピタルゲインが期待できる
定期的なキャッシュフローが発生するのは、株式投資にはない不動産投資ならではの長所である。
しかも定期的なキャッシュフローは不動産価格の短期的変動の影響を受けない点も、大きな特長だ。
また、売却時に値上がりすれば差額は売却益にもなる。
・購入物件を担保にできる上、値下がりしても追加担保は不要
購入物件を担保にし、物件からの収入を返済原資にあてる不動産投資は、企業買収でのLBOと同じと言って良い。
また通常のローンであれば、不動産価格の下落を理由に追加担保を求められることもない点は、不動産投資の特筆点だ。
■不動産投資のデメリット
・流動性が低い
不動産投資は株式と異なり、換金に時間を要する。
また「タダでもいらない不動産」は多数存在しており、そうした不動産は換金性がない。
即ち流動性がない。
・不動産投資特有のリスクがある
不動産投資は長期間融資額の返済が求められるため、金利上昇リスクを避けにくい。
金利以外でも空室や家賃滞納により、予定していた収入を得られないリスクもある。
また、地震や津波といった自然災害に遭遇する可能性や、事件や事故で価値が下落してしまう可能性もある。
・売値が残債を下回る場合がある
不動産価格の下落により、不動産の売却価格がローン残債を下回る場合がある。
そうなれば、売却できても残債が返せなくなるおそれが生じる。
■3つの重要ポイント
不動産投資で押えておくべき重要ポイントは次の3つだ。
・貸せるか
どんな高利回り物件でも、賃借人が付かなければ意味がない。
徹底した市場分析を通じ、物件の強み・弱みをしっかり把握することが重要だ。
・効率と安全
リスクとリターンはトレードオフの関係である。
大切なことはリスクとリターンの関係を数値化して、捉えることだ。
・ファイナンスの技術
より良い条件でローンを組むには、金融機関の動向を把握し、それに沿った投資計画を組み立てるファイナンスの技術も大切である。
第4章 建築提案の進め方
土地活用を提案する場合、「立地条件」と「活用のしやすさ」を「+」と「-」のマトリックスで整理すると土地オーナーの検討の助けになる。
立地が商工業地なら商業テナントビルや共同住宅など、幅広い選択肢が生まれるので「+」。
一方農地や郊外立地は太陽光発電や倉庫、墓地など、人の往来をあまり前提としない土地活用に限られることから「-」である。
活用のしやすさでは、更地が最も容易なので「+」。
底地や再建築不可は活用しにくいので、「-」の位置付けとなる。
他にも崖地、私道の通行許可の有無など、費用発生要件が存在する。
予算をかけただけの効果と価値があるか、事前検討が必要なことは言うまでもない。
こうした正確な現状認識と共に、現状に適した代替案を複数提案することが土地オーナーの合意を勝ち得る要諦となる。
また、土地活用の提案を求められる局面とは、ハウスメーカーや不動産会社、税理士などから既に提案が行われている場合が多い。
しかも土地オーナーの希望に基づいた提案なので、厄介である。
例えばアパマン建築の提案は
・相続税を払いたくない
・安定収入を得たい
といったオーナーの希望からだが、入居者が付いて収支がとれるのか、即ち事業として成功するかは全く別の話だ。
例えば税理士なら相続税や所得税の節税といった目的で提案を行うが、「不動産投資」という切り口からそれが正しいとは限らない。
・入居者が付くか
・最有効利用の用途か
・コストや収支、資金調達手段は適切か
・代替案はないか
現状認識と市場分析を通じ、提案書の問題点を見抜くと共に、最良の提案を行うことが土地活用の提案者に求められることだ。