「減価償却」節税バイブル
第1章 導入編 減価償却費の本質
■1 減価償却のおさらい
減価償却とは年々劣化する建物に応じ、一部を徐々に経費にすること。
その勘定科目が「減価償却費」である。
減価償却費の計上とは、端的に言えば税金の支払いを先延ばしにすることだ。
つまり、減価償却の計上以前にやるべき節税対策がある。
■2 減価償却の償却方法
減価償却の方法は二つある。
・定額法:毎年同じ金額を償却する方法
・定率法:未償却の残高へ同じ率の償却率をかける方法
定額法ならは毎年計上する償却費は同じになる。
一方、定率法は残高に応じて償却費も減ってゆくことになる。
定額法か定率法かは、例えば建物は定額法、器具備品は定率法など、内容によって税法で指定されている。
■3 減価償却における個人と法人の最大の違い
減価償却における個人と法人の最大の違いは個人が強制、法人が任意という点だ。
法人であれば減価償却費のコントロールが可能である。
どのような調整が可能かだが、例えばいつどれくらいの減価償却費を計上するかなどだ。
減価償却費は耐用年数内にすべて計上しなければならないというのは、誤解である。
耐用年数とは、減価償却費の限度額を計算するための年数に過ぎない。
計上期限ではないのだ。
■4 減価償却をどう考えるべきか?
減価償却限度額は、永遠に一定ではないことに留意すべきだ。
減価償却限度額は徐々に低下し、やがてゼロになる。
したがって減価償却費の計上は単年度で考えるべきではない。
限度額の変化を踏まえ、10年程度のスパンで計上額を判断することが大切だ。
第2章 基本編 減価償却費を使いこなす5つの方法
減価償却費をコントロールするには次の5つの方法がある。
■1 減価償却限度額を(短期で)最大限に使う方法
建物から求められた減価償却費を全額計上するメリットは、(計上する期の)帳簿上の利益を少なくできることだ。
利益が少なくなれば税金も減る。
その分、現金が手元に残ることになる。
従って限度額をすべて計上する方法は、短期間で不動産物件を増やすことをもくろんでいる方におすすめと言える。
■2 借入返済期間と同年数で償却する方法
資金の借入返済期間が10年なら償却費を4~5年で計上せず、10年間で計上する方法もある。
ローン返済期間はキャッシュが残りにくい。
それを償却費計上で緩和するという作戦だ。
ただし10年間償却費を一定にしたとしても、利息の支払いが年々低下すれば利益上昇が避けられない点は注意が必要である。
■3 建物付属設備も建物と同じ耐用年数とする方法
建物付属設備は建物より耐用年数が短い。
そのまま耐用年数で償却すると、建物は償却できるが建物付属設備の償却ができなくなる年が早期に訪れる。
そこで建物付属設備の償却期間を建物に合わせるのだ。
そうすると利益を平準化させやすい。
■4 キャッシュフローを安定させる方法
2と3を併用する方法で、ローン返済期間に建物と附属設備の償却期間を合わせる。
さらに利息低減割合に応じて償却費を増額させることで、キャッシュフローを安定化できる。
■5 売却を見据えて使う方法
何年後にいくらで売却できそうかを見据え、そこから逆算して毎年の償却費を決める方法もある。
長期だと難しいが、最大4~5年後ぐらいに売却を考えているなら、売却価格も予測しやすいのでおすすめだ。
第3章 応用編!減価償却費を使った節税テクニック
減価償却費による節税テクニックには次の5つがある。
■1 決算期の変更と減価償却のコントロール
物件が高値で売れたらキャッシュは増えるが、多額の法人税も発生する。
決算期を変更することで、法人税の圧縮が可能になる。
それに加え減価償却費を売却前の期では一切計上せず、売却益が発生した期へ全額移行させればさらに節税となる。
■2 経営セーフティ共済の導入
経営セーフティ共済は掛金を一括前払いで納付(最大400万円)でき、しかも支払った期に全額損金計上できる。
そこで売却益が発生する期に400万円一括で支払えば、その分売却益を圧縮できる。
しかも解約すれば、利益と見なされるが返戻金として回収できる。
■3 法人課税所得800万円以下に調整
法人税は課税所得800万円以下と800万円超で税率が大きく異なる。
次期に売却益が発生するなら減価償却費を減らし、今期所得を800万円まで増やすと良い。
減らした償却費を次期へ回すと、節税対策になる。
■4 見積耐用年数の使用
中古物件の耐用年数は簡便法の利用が主流となっている。
しかし簡便法は本来、中古物件の耐用年数の見積が困難な場合である。
もし合理的な方法で中古物件の見積耐用年数がわかれば、そちらを利用した方が有利な場合がある。
特に個人は強制償却ゆえ、見積年数が簡便法より長いと節税しやすくなる。
■5 物件ごとの減価償却費計上
例えば物件Aは長期保有が前提なので、減価償却費を全部計上する。
一方物件Bは近々での売却が決まっているので、減価償却費をゼロで温存しておき、売却時に一括償却する。
物件ごとに減価償却費をコントロールすると節税対策となる。
第4章 上級編 不動産投資家なら知っておきたい減価償却費のオプション
■金融機関対策
金融機関の減価償却に対する評価では、減価償却費全額計上が好まれる傾向にある。
理由は全額計上した上で、尚且つ利益を出している方が経営状況が良いと考えるからだ。
しかし、減価償却費のコントロールは違法ではない。
節税を優先した方が経営にとってはプラスだ。
また金融機関は「債務償還年数」も重視する。
ところが減価償却費はいくら調整しても、税引後利益に足し戻されてしまう。
債務償還年数では、減価償却費の調整は気にしなくても良い。
債務償還年数を短くする方法は二つ。
一つが繰上返済。
もう一つが税引後利益+減価償却費を増やし、借入金残債に対する割合を高める方法だ。
金融機関が最も気にするのは、債務超過になっていないかどうかだ。
債務超過=赤字ではない。
資産が負債を上回る状況が債務超過である。
ただし役員借入金は資本金とみなしてくれるので、心配無用だ。
■中古物件における不動産の按分
売買契約書には総額だけで、土地、建物それぞれの金額内訳がない場合、固定資産税評価額で按分されるのが一般的だ。
しかし合理的な基準があればそれにこだわる必要はない。
標準建築額による按分法などもある。
■新築物件における償却資産
新築物件の工事請負契約代金を建物として計上すると、償却資産があるにもかかわらず「家屋」と認識される。
工事内容毎に償却資産対象か、チェックが必要だ。
■海外中古不動産
個人の場合だが、令和2年の改正により海外中古不動産による所得税の節税は行えなくなった。
ただし法人は対象外で影響はない。
第5章 質問集編 さらに掘り下げるための11の問い
著者は読者から寄せられた11の質問事例をあげ、回答している。
その中から5項目ピックアップし、質問と回答の要点を紹介する。
■減価償却費の調整は税務署から指摘されないか?
そのような心配は無用だ。
法人なら、減価償却費の損金算入は自由な判断が認められている。
■5階建ての新築RC造で店舗、事務所、住宅が混在する場合、耐用年数は何年で計算すれば良いか?
建物用途が二つ以上ある場合、それぞれの用途で個別に減価償却を行う必要はない。
用途の中で主となるもの一つに絞り、その耐用年数を採用する。
■中古の収益マンションを3年前に購入し、簡便法で償却計算を行っていた。本年度より見積耐用年数を適用したいが可能か?
中古物件は購入した時点であれば、見積耐用年数の採用も可能だった。
しかしその後だと、適用した償却計算を変更することはできない。
■収益物件エントランスの装飾用に購入した絵画や置物は経費にできるか?
次に該当するものは損金計上できない。
・古美術品や古文書など歴史的価値や希少価値があるもの
・著名な作者の絵画や彫刻など
つまり上記に該当しなければ、減価償却を通じて必要経費として参入できる。
■減価償却の任意償却以外の節税対策はないか?
アパートやマンションを法人名義で購入し、社宅として経営者が住めば節税効果が高まる。
また法人で購入した場合、登録免許税や司法書士報酬、印紙代なども経費にできる。