ゲストハウスがまちを変える
1章 日本のゲストハウス・カルチャーの歴史
ゲストハウスとは欧米では「ホステル」、アジアでは「ゲストハウス」と呼ばれる宿の一種である。
1980年頃にゲストハウスの前進となる、外国人向けの小さな宿が誕生した。
その後、インバウンド需要の拡大とともにゲストハウスは徐々に増加していった。
2011年の東日本大震災で外国人観光客は一時的に激減し、増加はストップする。
しかし2012年に大型ビル1階に飲食店を併設させたゲストハウスが大ヒットするなど、再び盛り上がりを見せ始めた。
2013年に東京オリピック招致が決定すると、ゲストハウスへ大企業の参入が相次ぐ。
競合激化により、特に定員20名以下の小規模なゲストハウスは価格競争で苦しめられるようになった。
また、京都では無人宿のゲストハウスが急増し、夜間の騒音やゴミ出しが社会問題化する。
そこで京都市は2020年に規制を強化。
それがきっかけで、小規模なゲストハウスは次々と廃業に追い込まれた。
さらに追い打ちとなったのがコロナによる自粛要請だ。
この要請は定員100名の大型ゲストハウスにも打撃となった。
行政の補償は十分ではなく、ゴートウトラベル政策も相部屋は日本人に敬遠されやすかった。
その結果日本人客の獲得は困難を極め、東京中心部の大規模ゲストハウスは軒並み閉業に追いやられた。
2章 地域融合型ゲストハウスの運営
ゲストハウス品川宿を開業した理由は三つある。
・宿泊事業への憧れ
・バックパッカーとしての海外経験により、現地の人との交流が最も記憶に残ったこと
・旅先で出会った友人達を日本で迎える場を作りたいと考えたこと
小規模にこだわったのは、地域と密着することで大手が金を積んでも手に入らない地域との関係を手に入れるためだ。
ゲストハウスはゲストと地域の人々をつなぐ役割を果たしている。
しかしそれだけが「地域融合型ゲストハウス」の本質ではない。
・チェックインからチェックアウトまで、一ゲストに一名のスタッフが寄り添う一元化されたサービスがあること
・その地域の日常生活に触れられる体験ができること
・家族と接するような血の通ったコミュニケーションがあること
・地域の価値観を理解しようとする姿勢を持った宿であること
これらがリピーターを獲得できる、地域融合型ゲストハウスの条件と言える。
しかし地縁がない地域では、近隣住民と信頼関係をすぐに築くことは困難である。
次のような段階的な努力を積み重ね、信頼関係を築くことが大切だ。
1地域の一員となるため、町内会や祭りに積極的に参加する
↓
2自ら汗をかくことをいとわず、地域でリーダーシップをとる
↓
3.自ら主導して、地域が発展する新たな企画を立てる
3章 ゲストハウスの事業計画、サービスのつくり方
ゲストハウス開業ポイントを項目ごとに紹介する。
■1 エリア選定
「街の富の変遷」が感じられる地域を選ぶことだ。
かつて何かで栄えていた繁栄の歴史を持つ街は、地域を盛り上げる協力を得られやすい。
■2 コンセプトづくり
ヒト・モノ・カネ・ジョウホウの4要素で自己分析を行う。
その上で顧客のペルソナ、つまり具体的なターゲットを確定する。
ターゲットが確定したら、それにマッチしたコンセプトを熟考する。
ポイントは競合と被らないコンセプトを考えることだ。
■3 物件選定
不動産屋に行っても「ゲストハウス」と言っただけで断られる。
まず開業希望地に住み込み、自分で歩き回って地域住民と関係性を築く。
地域の人から得た情報を元に空き家を探る、アナログな方法がおすすめである。
■4 事業計画書づくり
事業計画書は金融機関からの資金調達、協力者からの理解、そして自分自身のコンパスとして重要だ。
特に古民家改修では予想外に資金が膨らみやすい。
20%程度、費用を多めに見積もっておくことがポイントだ。
■5 施設づくりとサービスづくり
施設=ハード、サービス=ソフトは表裏一体である。
ハードでは、真摯に仕事へ取り組むプロ業者を味方にすることが重要だ。
サービスではゲスト、宿、地域住民の三方にメリットがある企画を考えるのがポイントである。
4章 宿の価値を高め、地域と連携する運営
ゲストハウスを運営すると、必ずクレームと向き合うことになる。
クレームが発生したら内容、ゲストの反応など、記録をとっておくことをすすめる。
宿の価値を高める上で重要なことは二つ。
一つは他の宿がまねしにくい企画やサービスを提供すること。
コピーされやすい企画やサービスは大手に売上ごとコピーされ、奪われてしまう。
二つ目はトレンドではなく、自分の得意をいかすこと。
トレンドは移り変わりが激しいし、オーナーの思いが伝わらない内容であれば魅力も感じられにくいからだ。
ゲストハウスで難しいのは人材雇用である。
ゲストハウスは閑散期と繁忙期のギャップが大きく、売上が安定しにくいため雇用を維持しにくいからだ。
ゲストハウスが軌道に乗り、満床が続き出すと多店舗展開も検討するようになる。
多店舗展開は売上げアップや対外的信頼性の向上、スタッフのモチベーションアップなどのメリットがある。
一方で、サービスの品質低下やオーナーの生活バランスが崩れやすいといったデメリットもある。
自問自答した上で、慎重に取り組むことが肝要だ。
ゲストハウスの運営効率化も重要なテーマと言える。
ゲストハウスも事業のデジタル化、IT化は今後の運営効率を高める鍵になる。
5章 開業支援事業のケーススタディ
宿場JAPANでは、個人向け開業支援として「Dettiプログラム」という取組みを行っている。
最初の6カ月月間は同行してもらい、現場で経験を積んでもらう。
6カ月過ぎたら候補地に向かい、地域のキーマン探しや地域活動に参加してもらう。
ゲストハウス運営の厳しさを再三伝え、それでも心が折れない気持ちを持ち続けられた人だけをサポートしている。
重要なのは箱ではなく、現場に立つ人である。
地域活性化の情熱と運営を持続できる経営力を備えた人材が必要であり、プログラムはその育成を目的としている。
次にプログラムを通じた支援事例をいくつか紹介する。
■ゲストハウス蔵
長野県須坂市はシルク産業で栄えた街である。
オーナーの山上さんの粘り強い努力の結果、物件の開発やその後の運営目標も早期達成。
その成功をベースに、蔵の向かいに二棟目もグランドオープンさせた。
■北海道網走郡津別町
津別町は、隣接する釧路などに観光スポットが有ることから通過されるだけの街だった。
少子高齢化も進んでいた。
そこで津別町の人々と、ゲストハウスとコワーキングスペースを作るプロジェクトを発足。
自治体との連携、街を盛り上げたいと考えていた若者リーダーの発掘、そして空き家の発掘。
これらが相乗し、地域には新店舗が続々誕生するようになった。
6章 これからのゲストハウスの可能性を探る対話
6章ではゲストハウス運営者などと対談を行った内容を紹介している。
ここではゲストハウス運営事業者の溝辺佳奈氏と、株式会社アドレス代表取締役左別当隆志氏との二名の対談内容を紹介する。
■溝辺佳奈氏(ゲストハウス由苑運営者)
特別な資格がなくとも、営業許可が取れたら参入できるのがゲストハウス。
大手などの競合参入も相次いだが、ゲストハウスが好きな人達が楽しく過ごせる空間作りにこだわってずっとやってきた。
その結果、多くのハウスがコロナで淘汰される中、生き残ることができた。
運営者自身が年をとるとゲストとの年齢ギャップが生じてくる。
自分の感覚にこだわらないことも心がけている。
新たな社会の仕組みをつくる「ADDress(※)」の動きにも注目している。
■左別当隆志氏(ADDress(※)運営者)
私(左別当氏)はリノベーションした空き家やシェアハウス、ゲストハウスを毎月4万4千円で定額で住み放題となる、ADDressというサービスを運営している。
しかしその価格の安さから会員が急増し、会員の質が低下してしまった。
そこで、会員が減ることも覚悟の上で利用者審査を行うようにした。
共同生活に適していない人は断るようにしたのだ。
その結果会員の質が高まり、退会も減り、利用者の継続期間も伸びていった。
最終的にはADDressを、日本の空き家の1%を占める事業規模にもってゆきたい。