なぜニセコだけが世界リゾートになったのか

第1章  ニセコはバブルなのか

 

ニセコは国税庁統計による標準宅地上昇率で、6年連続(2020年現在)1位となった。

 

坪当たりの評価額でも北海道で3位だ。

 

香港やシンガポール、中国といったアジア中心の外国資本による不動産開発の加速と、それと相まって、高まり続ける海外富裕層の関心が地価上昇の大きな要因と言える。

 

ニセコは日本であって日本ではない。

 

欧米のリゾート地のような街並みへと変容し、コロナ禍にあっても世界中から55万人の観光客が訪問する、世界的人気観光エリアへと成長した。

 

その結果、外国人を含めた多くの雇用も生まれ、それがニセコ移住を促し、住宅開発の後押しにもなっている。

 

2030年の札幌冬季五輪開催の可能性に加え、北海道新幹線の延伸でニセコ新駅開業も予定されており、ますますニセコブランドの向上が期待されている。

 

ところがこうした趨勢に対し「ニセコの不動産はバブルだ」、「やがて崩壊する」といった声も少なくない。

 

そうした見方は、海外富裕層対象の金融・不動産市場で確固とした地位を築きつつあるニセコの真の価値と、ニセコへ注がれる投資資金の変化を理解していないと言える。

 

 

 

第2章 日本の観光業の敗北と外資による再生

 

ニセコは東急、西武といった大企業グループによるバブル期の開発が、今日の発展の礎となった。

 

東急グループは92年に、花園地区にゴルフ場とスキー場をオープンした。

 

その後のバブル崩壊と不良債権問題により、東急は花園スキー場とゴルフ場を日本ハーモニー・リゾートへ売却した。

 

日本ハーモニー・リゾートは香港の財閥PCCWグループに買収され、現在同グループによる設備投資と開発が急ピッチで進んでいる。

 

次に外国人スキーヤーや観光客で賑わうニセコビレッジだが、西武グループが開発したことを知る人は少ないだろう。

 

西武はホテル・スキー場・ゴルフの一体開発を積極的に行っていた歴史があり、ニセコでは第三セクターとして82年にスキー場やホテルを開業した。

 

しかし、その後の長期不況により不採算部門となったニセコ事業は米シティグループへと売却された。

 

シティグループのもと、ニセコのホテルはヒルトンブランドとしてリニューアルしたが、国際ブランドのホテルが開業したことは、外国人スキーヤーを惹き付けるターニングポイントとなった。

 

ニセコは日本企業の開発を経て外国資本に引継がれたが、外国資本が成功した理由は「海外」「富裕層」「スキー」に絞った選択と集中による長期的投資を行ってきたからだ。

 

一方日本企業の観光開発はバブル崩壊だけでなく、全方位型の観光開発にこだわってきたことが敗因と見られる。

 

 

 

第3章 ニセコに富裕層が集まる理由 

 

なぜニセコは沈まないのか。

 

一番の理由は、ニセコにホテルコンドミニアムという錬金術があるからだ。

 

ホテルコンドミニアムとは、分譲マンション同様ホテルが部屋ごと区間販売され、所有者がホテルを利用しない場合は、一般客にホテルとして貸し出し可能な仕組みのことである。

 

宿泊客の利用料から経費を差引いた、残り40%程度が所有者の収入となる。

 

ホテルの面倒な管理や運営は全て海外の管理事業者が行っていることも、海外富裕層の安心材料の一つになっている。

 

もっとも、総投資額に対するこうしたインカムゲインは利回り1%から3%程度で、高いとは言えない。

 

それでも富裕層がニセコのホテルコンドミニアムに積極投資を行う理由は、キャピタルゲインが狙えるからだ。

 

ニセコは地価上昇率6年連続日本一で、過去5年で10倍以上上昇した物件も珍しくない。

 

現在、コロナの影響で日本のインバウンド需要は落ち込んでおり、世界的な景気低迷も深刻な状況だ。

 

それでもニセコが沈まないのは、先進国が大胆な金融緩和を実施しているからであり、お金あまりの状況は当面続くと見られるからだ。

 

あまったお金は、優良投資先に向かうことになる。

 

”安全資産”と評価される日本の円とその不動産が同時に手に入るニセコは、金あまりが続く限り、大変魅力的な投資先であり続けるであろう。

 

 

 

第4章 ニセコの未来

 

1平米あたりのリセール住宅価格を世界トップクラスのスキーリゾート地と比較した場合、ニセコは31位になってしまう。

 

日本が誇るニセコはフランスのクーシュベル、米国のベイルといった世界有数のスキーリゾート地と比較すればまだまだリーズナブルなのだ。

 

海外富裕層の投資需要は、当面止むことはないだろう。

 

ニセコの価値や地域経済力を高める方法として、通年賑わうリゾート地にすべきという意見もある。

 

しかし、世界トップクラスのスキーリゾートは、スキーシーズンだけで1年分の稼ぎを捻出している。

 

各リゾート地が選択と集中により、混雑するスキーシーズンでも最高のおもてなしができるよう、顧客サービスに磨きをかけてきたからだ。

 

中間所得層がたくさん来訪し、年中賑わう全方位型のリゾート地になってしまえば、誰もが押し寄せるリゾート地を嫌う海外富裕層の離反を招く可能性がある。

 

ニセコは海外富裕層に特化した、スキーシーズンに輝く高級リゾート地を今後も目指すべきだ。

 

時間を大切にする海外富裕層のため、やるべきことはまだある。

 

ヘリポート開設や高速道路の整備、東京からニセコへのアクセス充実などは、ニセコの未来において特に重要と言える。

 

 

 

第5章 ニセコに死角はないのか

 

ニセコの死角として見られているのが、外国籍住民と日本人住民の摩擦だ。

 

ところがアンケート調査や人口動向を見る限り、それほど大きな問題にはなっていない。

 

それより問題なのは、ニセコのリゾート開発とインフラや環境のバランスが崩壊しつつある点だ。

 

リゾート開発に伴い必要になる上下水道、道路などの整備は地元自治体の負担となるが、財政に限りがある。

 

また、スキーヤーの増大により、ニセコのキラーコンテンツであるパウダースノーが滑り固められ、十分に味わえない日が増加している。

 

更に昨今の地球温暖化により、ニセコの降雪量が30%以上減少するとの予測もある。

 

クーシュベルやベイルはニセコほどの雪質がなくとも、世界的なスキーリゾートの地位を確保している。

 

外資系高級ホテルの充実により、スパや食事など、スキー以外の滞在の楽しみが充実しているからだ。

 

ニセコもこうした流れを確立することが大切と言えよう。

 

その他の死角としては、ニセコエリアが複数の町に跨っていることで、ニセコ全体を網羅した地図が存在しないなど、縦割り行政の弊害もあげられる。

 

自治体の合併を通じ、ニセコの一体的な環境対策や観光行政推進が望まれる。

 

 

 

第6章 観光地の淘汰が始まる

 

観光地として淘汰されないために、ニセコから何を学ぶべきかと言えば「選択と集中」だ。

 

富裕層が集まるリゾート地には富裕層以外のマスリテール層も集まるが、マスリテール層中心のリゾート地に富裕層はこない。

 

観光ビジネスは、観光客数の追求ではない。

 

むしろ少ない観光客でいかに収益を確保するかが重要である。

 

また、インバウンド特需は一過性のものだ。

 

今後は日本人富裕層の獲得も不可欠である。

 

そのためには、日本の富裕層が満足できる、海外高級リゾート地でしか味わえない環境やサービス、つまりニセコが先駆けてやってきたことを充実させることが急務だ。

 

日本は一律での地方創生に、見切りを付ける時がきた。

 

過疎地域をひとまとめに問題視し、インフラ投資すべきではない。

 

人が住む地域と住まない地域、開発する地域と自然のままの地域を分ける、即ち「選択と集中」が日本に求められている。