やってはいけない不動産投資

第1章 「長期保証」で油断させる

 

サブリース契約を通じた長期家賃保証のうたい文句と、スルガ銀行によるフルローンの手引きにより、シェアハウス投資者はスルガ銀行の融資先だけで1,200人を超えた。

 

被害者の多くは電機や自動車、金融などの有名企業勤務のサラリーマンである。

 

年収も1千万円程度あり、贅沢を求めたのではなく、今の暮らしの将来的安定を目指しただけだった。

 

決め手となったのが長期にわたる家賃保証契約である。

 

契約上はローンを上回る賃貸料が得られるはずだった。

 

それがシェアハウス投資という無謀な道へつき進む、大きな動機となった。

 

土地と建築費で約8千万円の物件が、1.3億円で売買されていた事例が多々ある。

 

投資を持ちかけた不動産会社の利益が、積み増しされていたためだ。

 

物件価格が高くなれば、回収に必要な家賃も高く設定しなければならない。

 

物件価格と周辺相場を調べた上で、どれくらいの家賃収入や入居率が見込めるか、実現性や妥当性を調べて投資判断すべきだったと言える。

 

つまり家賃保証とは、客が支払った大金の一部を返す自転車操業にすぎないのだ。

 

 

 

第2章 「今がチャンス」と錯覚させる

 

サラリーマンを巻き込んだ不動産投資ブームが起きたのは、2013年から17年にかけてである。

 

アパートやシェアハウスなどの賃貸用不動産投資の加熱により、ピーク時には需要を6万戸を上回る物件が供給されていた。

 

また不動産投資物件価格は2012年頃が底で、投資ブームにより2017年まで価格は上昇の一途をたどった。

 

したがって12年に不動産投資を行った人ならそこそこの利益を得られたろう。

 

しかし、17年に購入した人は最も不利な利回りで投資をスタートさせたことになる。

 

しかもこの当時に流行したのが、長期家賃保証を餌にサラリーマンへローンを組ませて投資物件を購入させる手口だった。

 

それらの物件には、周辺相場を大きく超える利益がのった価格で販売されたものが多い。

 

ただでさえ不利なタイミングの上、「今がチャンス」と巧みな不動産業者がそれを隠して投資物件を売りまくったのである。

 

これほどハンディを背負ってしまえば、リスクを挽回して資金を取り戻すことは厳しいと言わざるを得ない。

 

 

 

第3章 「リスク」から目をそらす

 

例えば1、800万円の売り物件に対し、1,800万円の融資を引けたとしても自己資金ゼロにはならない。

 

200万円ほど諸経費が別にかかる。

 

そこで不動産業者は銀行へは

「顧客とは2,200万円で売買契約を結んだ。200万円は顧客が自己資金で負担する」

と噓の申告を行う。

 

こうすれば2,000万円の融資を引けるので、諸経費200万円も賄えるオーバーローンが実現する。

 

これは二重契約という犯罪行為だが、不動産業界では横行している。

 

「自己資金ゼロ」の誘惑にひっかかる客は多い。

 

自己資金ゼロとはあたかも自分の懐を痛めずに、他人の資金を利用して金儲けできるように思えるからだろう。

 

しかし借金返済の全責任はすべて借主にかかってくることを、理解できていない。

 

また最近では「三為(さんため)契約」が不動産業界を席巻している。

 

三為契約とは、所有権移転やお金の支払いまでの期限を設けた上で、業者が売手と売買契約を結び、その期間内に買手を見つけて物件を売りさばく手法だ。

 

この方法だと仕入れ価格が不明になり、三為契約を結んだ業者は好きなように価格設定できる。

 

こうして三為業者は顧客をだまし、利益をむさぼっているのだ。

 

 

 

第4章 「不正」には気付かせない

 

不動産融資に必要な「エビデンスを作る」という名目で、不動産業界とスルガ銀行の間では年収や貯蓄額の改ざんが横行していた。

 

顧客から通帳のコピーを受取り、ソフトウエアを利用して数字を修正。

 

数十万円しか貯蓄がないサラリーマンを、3千万円の貯蓄があるように見せかける。

 

そうすれば、たいして貯蓄がないサラリーマンが億単位の物件を自己資金ゼロで購入できてしまう。

 

スルガ銀行は自ら不正に関わり、不正だとわかる資料も黙認してきた。

 

しかしシェアハウス事件が報道されたことで、スルガ銀行の審査は厳しくなった。

 

すると厳しい審査をかいくぐろうとする、不動産業者が現れた。

 

客も不正とわかっていながら「業界ではあたり前だ」と言われ、不正に協力してしまうケースも増えた。

 

年収や貯蓄額を偽って銀行をだます行為は罪に問われかねない。

 

融資を業者任せにせず、金融機関を正しく利用することが大切だ。

 

 

 

第5章 「高利回り」と見せかける

 

レントロールとは物件ごとの家賃収入表のことである。

 

金融機関の審査を通すため、業者の間ではレントロールのでっち上げも横行している。

 

例えば銀行の現地調査対策として、空室の部屋にカーテンをかけることで人が入居しているように見せかける手口などがある。

 

こうして銀行に対してはウソのレントロールを提示する一方、客とはトラブルを避けるため、本物のレントロールを提示する場合が多い。

 

ところが客すらだます場合もある。

 

家賃を業者が受け取って客に振り込むようにしておけば、空室分の家賃を業者が補填することもできる。

 

それでウソがばれないようにする訳だが、業者が破綻した場合、客に残されるのはレントロールと実態が異なる、空室が多い物件となる。

 

不動産投資には諸経費も含め、多額の資金が必要だ。

 

借金が増えるほど、金利や手数料も増加する。

 

その上ウソのレントロールに基づいて、法外に価格を吊り上げられた不動産物件だったとなれば目もあてられない。

 

 

 

第6章 「ウソ」は堂々とつく

 

「不動産に投資すれば消費者金融での借金が帳消しになるだけでなく、家賃収入も手に入る」

 

こうして借金を抱える顧客を喰い物にする不動産業者もいる。

 

まず不動産業者が借金を肩代わりし、完済する。

 

その代わり6千万円で仕入れた不動産を1億円で購入させる契約を結ぶのだ。

 

貯蓄額や収入を偽造して銀行の審査を通せば、借金を肩代わりしても十分に利益が見込めるからだ。

 

しかし、その顧客は数百万の借金が1億円に膨らむことになる。

 

他には違法建築の物件ばかりを取扱い、荒稼ぎする不動産業者などもいる。

 

違法建築の物件は買ってはいけない物件だ。

 

それを格安価格で仕入れ、顧客には違法建築であることを伏せて販売するのだ。

 

悪徳業者は中小企業ばかりとは限らない。

 

東証一部上場のレオパレスもずさんな工事がまかり通り、20年近くも不正を隠し通してきた。

 

 

こうした、ウソで塗り固めた不動産業者による勧誘の魔の手は野放しの状態になっている。

 

それでも不動産投資を始めるなら、決して業者の言いなりになってはいけない。

 

第7章 「それでも投資したい人のために」

 

銀行がお金を貸さなくなり買う人が少なくなる時期こそ、実は不動産投資の好機と言える。

 

一定の資金力が必要にはなるが、そのような時期なら優良物件が市場にあふれ、売値もじりじりとさがってゆく。

 

逆に言えば銀行の審査が緩くなり、不動産物件を購入しやすくなる時期は不動産購入をひかえた方が賢明である。

 

それでも不動産投資を考えるなら、悪徳業者の手口から学習しておくことだ。

 

一つ目は業者による「家賃保証」をあてにしないこと。

 

二つ目は業者が提示する「利回り」を信用せず、自分自身でコストとリスクを徹底的に洗い出すこと。

 

三つ目は業者の言うことを鵜呑みにせず、提供された情報を一つずつ検証すること。

 

迷った場合は、引き返すこともちゅうちょしてはいけない。

 

四つ目は身の丈に合った投資を行うこと。

 

仮に投資に失敗しても、路頭に迷わずに済む範囲で行うことだ。

 

この一線だけは決して譲るべきではない。

 

ウソで塗り固められた業者の勧誘テクニックは、これからも進化し続ける。

 

自分だけは大丈夫だと思うべきではない。