問題だらけの日本の不動産
第1章 ニッポンは不動産もガラパゴスだった!
不動産で登記上義務化されているのは、土地だけである。
建物の登記は義務化されていない。
仮に登記したとしても、日本の登記制度には「公信力」はない。
あるのは第三者に対抗する手段としての「公示力」のみである。
つまり登記を行っても、国が「あなたの不動産である」と所有権を保証してくれる訳ではないのだ。
その上、法務局で閲覧できる「公図」を見ると、地番はわかっても自分の家がどこからどこまでなのかわからないケースが起こり得る。
国は国土も把握できていない状況なのだ。
公図を問題視した国は「地籍調査」に乗り出したが、70年かけて進捗率は52%。
国土のほぼ半分が、境界線や地番がいい加減な状況と言えるのだ。
また、日本の木造住宅の耐用年数は税法上22年とされている。
22年後には経済的価値がなくなるが、40年、50年と長持ちしている木造住宅は山ほどある。
日本は新築ばかりが価値があるように見なされる。
一方欧米は古いものほど価値があり、住宅は100年住むのが当たり前である。
その結果、米国の中古住宅取引戸数は日本の33倍にも及ぶ。
建築の根幹をなす建築基準法は、新築中心の法律となっていることも問題だ。
同法は空き家、古民家再生などでは機能していない。
これではSDGsの理念からかけ離れるばかりである。
第2章 「つくる」から「使いこなす」時代へ
日本はバブル経済の崩壊とともに、不動産業界は勢いを失ったように見られがちだ。
しかしバブル崩壊で土地も金利も安くなった結果、デベロッパーが広い分譲マンションを首都圏で販売するようになると人気が沸騰した。
マンションブーム到来により、バブル期を超えるマンションが供給されたのだ。
ところが2008年のリーマンショックにより、多くの中小不動産会社が倒産。
これでマンション実需は壊滅したかに思われたが、今度は不動産投資ブームが巻き起こる。
大手デベロッパーによるタワマンなどを除けば、リーマンショック以後マンションは投資対象という色合いが濃くなっていったのである。
しかし新築マンションの供給は頭打ちとなり、2016年、首都圏では中古マンションの販売戸数が新築マンションを上回ったのだ。
それに一役買ったのが、マンションの買取再販やリノベーション専門事業者の台頭である。
持続可能な社会への貢献として、新築ではなく中古再生を通じて社会貢献しようという若い起業家達が増え、市場を牽引しているのだ。
日本政府自体もスクラップ&ビルドからストック型社会への転換を目指し、2006年に「住生活基本法」を施行した。
官民一体となって、少子高齢化や空き家活用といった社会問題へ取り組む機運が高まりつつある。
第3章 不動産の「6次産業化」に挑む
不動産業界は売買専門、管理専門といった具合に分業制が当たり前だった。
しかし近年では開発から管理まで一貫して手がけるのが主流になりつつある。
これが不動産業の「6次産業化」である。
農林水産業であれば生産や収穫が1次産業、農産物を加工するのが2次産業、3次産業はそれら商品の流通・販売となる。
これを一貫して行うことを1次☓2次☓3次で「6次産業化」と言い、すでに成功例も見られる。
不動産の場合は土地や既存建物の仕入れが1次、新築やリノベーションへの取組みが2次、売買や賃貸仲介、管理が3次となる。
こうした6次産業化に加え、不動産業はIoTをプラスすることで発展するであろう。
日本の不動産業は宅建業法上、宅建士が対面で重要事項説明を行う必要があることから、IT化が遅れていた。
幸いなことに、2021年に売買契約における重要事項説明のオンライン化が解禁された。
これでオンラインだけでの不動産取引も可能になったのだ。
忙しいので、画像や動画情報だけで不動産を購入したいと考える顧客などに物件を提案しやすくなる。
またIoT化の進化は遠隔医療の発展を促すであろう。
そうなった時、高齢化社会を迎えた日本の住宅にこの先求められるものは、在宅医療の進化、すなわち「医療住宅」だと考えられる。
第4章 空き家・空き店舗を「REBORN」というマジックで生まれ変わらせる
日本は空き家問題が深刻だが、空き家が増える理由がある。
・立地が悪い地方の物件などは、売りたくても買手がおらず、貸したくても借手がいない。
・空き家だけの相続放棄ができない。全ての相続を放棄しなければならなくなる。
・自治体は値打ちがない物件は管理の手間が増えるため、寄付を申し出ても受け取らない。
・更地の駐車場にすると固定資産税が6倍に跳ね上がる。空き家のままの方が固定資産税が安い。
・住宅用地で、しかも古い木造住宅なら固定資産税が大変安くなる。
こうした事情により、空き家を処分したくても処分できなかったり、あえて空き家のまま放置したりしているのだ。
2015年に空き家特措法が成立し、行政による強制執行が行われるケースも出てきた。
まだ十分ではないが、空き家問題は少しずつ改善され始めてはいる。
しかし望ましいのは処分ではなく再生だ。
空き家には4つの再生法がある。
・空き家を店舗や介護施設などに用途変更する。
・「ニコイチ」と呼ばれる方法で隣家による購入を促す。
・セカンドハウスとして利用してもらう。
・民泊やゲストハウスに変える。
今まで空き家再生のネックになっていたのが、建築基準法だった。
2018年に改正され、200㎡以下の住宅の転用は確認手続き不要となった。
この改正は古民家再生の大きな後押しとなった。
第5章 地方不動産の活性化が日本を救う
日本の出生率で最も低いのが東京で1.13。
一方沖縄は1.86、島根1.69と都会より地方の出生率が高い。
地方は住環境に恵まれているが、経済疲弊が深刻である。
不動産を再生し、地方を活性化させることで人を呼び込むことが地域経済を活性化し、少子化対策にもつながると考えられる。
再生とはリスクがともなう新開発のことではない。
既存建物の再利用のことであり、そうすれば資源の節約だけでなくリスク低減も図れる。
ところが地方の不動産は「負動産」が増えている。
負動産とは、一定期間の固定資産税や管理費を支払うことでようやく引き取ってもらえる不動産のことだ。
不動産は市場価値がなくとも、買い取った瞬間から固定資産税や管理費が発生する。
だから誰も引き取りたがらないのだ。
国は不動産価格が一定水準を下回ることがないよう、政策的に安定させるべきである。
価格が保証されていれば、国民は家を購入しようというインセンティブが働く。
また、もう一つ提唱したいことは「デュアルライフ」だ。
新築ばかり増やしたら、空き家問題はいつまでたっても解消しない。
富裕層だけでなく一般の人々が家を二軒持てるようになれば、空き家は解消に向かう。
それには住宅ローンの見直しなど、やはり政策的な調整が必要である。
第6章 不動産は未来を創造するビジネス
私は義父から誘われ、義父が経営する近藤産業(KSグループホールディングス)へ電通から転職した。
バブル期に同社は米国へ進出し、ゴルフコースを買収した。
事業は順調だったが、9.11により利用者が激減し、瀕死の重傷を負った。
しかしその後米国は経済を復活させ、米国の住宅バブルが始まった。
不動産事業はタイミングだと実感した。
安い時に買って高い時に売るのが基本だが、これが難しい。
そんな不動産の変化を経験しつつ、55年の歳月を不動産事業とともに歩んできた。
振り返って実感するのは、不動産ビジネスは大きな仕事ができる点が魅力だということだ。
しかし、お客様の立場で考えた場合、日本の不動産はおかしい。
35年のローンを支払い終えたら、家の価値はゼロになっているのが今の日本である。
これでは財産とは言えない。
SDGsの理念からもわかるとおり、地球資源や環境を考えた場合、これからは新しく作る時代ではなく、古いものを残し、再生する時代となってきた。
空き家を用途変更し、面白いものに変えたら地方は活性化する。
それは日本の再生にもつながるはずだ。