不動産で知る日本のこれから
第1章 マンションはどうなっていく?
庶民の憧れの的となっているタワマンだが、築15年~20年のタワマンは雨漏りが問題になっている。
コンクリートの繋ぎ目や窓枠に充填するコーキング劑が、経年劣化してきたためだ。
しかし高層のため、足場を組んでの修繕ができない。
またタワマンに装填されているエレベーターはとても高額だ。
更新には大変な費用を要する。
都内のマンションの7割は50歳以上の世帯が占める状況だ。
最近は親が残したマンションの相続を敬遠し、相続人同士が押し付け合う場面が増えている。
そのため、管理組合に相続を申し出ないケースも増えた。
結果、管理費や修繕費積立金が滞納となる問題を引き起こしている。
相続人を見つけ出せても対象者が複数だと、思うように徴収もできない。
以前なら、最終手段としてマンション住戸を差し押さえて競売し、滞納分を回収できた。
しかし立地や築年数次第では、競売にかけても確実に回収できる保証が失われつつある。
また、マンションの建替え自体も大きな問題をはらんでいる。
日本のマンションの約106万戸が旧耐震基準(1981年5月までに建築されたマンション)であり、耐震補強や建替えが必要である。
ところが建替えが実現したのは全体の1%にすぎないのだ。
加えて、越後湯沢のリゾートマンションなどが主な事例だが「腐動産化」も著しい。
売却額はマイナス180万円。
つまり売主が180万円支払わないと、売却すらできない状況に陥っているのだ。
第2章 不動産新事情
ネット世代の家の買い方には驚きを禁じ得ない。
ネットからさまざまな情報を瞬時に得てきた世代が、家については保守的な発想に留まっているからだ。
賃貸住宅に住んで家賃を払い続けるのはもったいない、同じお金を支払って「所有」した方が良いという発想だ。
投資という観点でこの発想をみた場合、実に危険な投資と言える。
35年ものローン債務の返済原資は債務者の給料債権のみ。
資産が収益を稼ぐ発想はない。
終身雇用制が破綻しつつある現在、35年間も給与を得られる保証などない。
それでも35年後、所有できた家が資産として価値があれば投資として成功だ。
しかし35年後の戸建やマンションを見学すれば、どれほどの価値があるか想像がつく。
家は経年劣化する。
むりやり購入し、価値が落ちてゆく家を所有することにどれだけの意味があるのか。
ほかにも日本の不動産には問題が山積している。
例えばリバースモーゲージは魅力的なシステムに思える。
親が利用した借入金は、不動産を売却して回収するのが基本だ。
しかし世帯数が減少してゆく日本で、住宅は簡単に売却できなくなる。
売れない家と借金は相続人が背負うことになるのだ。
首都圏では建物内に墓を収容する「墓ビル」が増加している。
しかし建物は有限だ。
60年先に建替が必要になった場合、その費用はどこから捻出するのか。
永続できない器に永久存在が必要な墓を収容する矛盾に、墓ビルは気付いていない。
第3章 不動産の背景は、こうなっている!
土地をなめてはいけない。
土地はぱっと見、地面でしかない。
しかしその下には魔物が潜んでいる場合が少なくないのだ。
特に都心は埋立地であったり、産業廃棄物が埋めてあったり、土壌汚染対策が不十分であったりする地域もある。
そのような地域は大地震の際に魔物が目を覚まし、人々に襲いかかるのだ。
ところが「住みたい街ランキング」の上位10位は都心部のターミナル駅が、選ばれている。
会社へ通うための交通利便性を、相変わらず重視していることがわかる。
近年、コロナの影響もあり、働き方が大きく変わり始めているのにだ。
ベンチャー企業に限らず、大企業ですら1週間のうち、会社に出社するのは1,2回というケースが珍しくなくなってきている。
働く場所を選ばなくなってきているのだ。
働く場所が縛られないのであれば、不動産も「持ってなんぼ」の世界から「使ってなんぼ」の世界へと変わる可能性がある。
もう一つ日本の不動産の問題をあげるなら、「私権」が強いことだ。
その私権の強さが今日の空き家問題を招いている。
私権の強さが、不動産所有者のスムーズな移転を妨げているのだ。
特にマンションの空き家問題は、合意形成が必要なので事態はより深刻だ。
建物の老朽化と住人の高齢化により、マンションの価値がなくなり、売却もままならない物件が増大している。
特に都心部はコミュニケーションが希薄な上、区分所有者が高齢化すると合意形成が絶望的になるからである。
第4章 地方はどうなる? 観光はどうなる?
地方都市は人口減少だけでなく、高齢化が極端にすすんでしまったことで街の活気が失われている。
商店街の多くは「シャッター街」となった街も多い。
しかし意外にも元店主らは困っていない。
年金で生活できている上、更地にすると固定資産税が高まるため、そのまま放置しているのだ。
狭い道路と老朽化した商店家屋では、住民を引き戻すことなどできない。
空き商店を撤去し、道路を拡張して交通網を再整備するなど、街を作り直すぐらいの気概が必要だ。
地方の観光にスポットをあてた場合、日本では温泉地が代表格としてあげられる。
しかし温泉地周辺の旅館は、どこもかしこも一泊二食付きのシステムを採用している。
インバウンド需要を見込んで復活を目論むなら、こうした制度は止めるべきだ。
外国人は自分が食べる料理は自分で選択するか、自ら食材を買って調理するのが一般的だからだ。
特に長期間その地域に滞在し、温泉地を楽しみたいと考える外国人のニーズと1泊2食のサービスはマッチしていない。
そんな地方の温泉地で熱い地域と言えば、別府温泉である。
別府市のプロモーションビデオの大ヒットに加え、大型リゾートホテルブランドの誘致にも成功。
ホテルは大型クルーズを用意し、夜には別府湾でクルーズディナーを楽しめる企画もあるという。
別府温泉は2017年に外国人観光客が60万人を突破した。
今後はリピーターを獲得する、魅力的なソフトを用意することが鍵になる。
第5章 都市開発の行方
都心部の交通網は相互乗り入れが増え過ぎたことで、大きな問題を抱えるようになった。
例えば東急東横線は、遅延が少ない優等生であった。
ところが乗り入れ先の踏切事故や人身事故など、接続先で生じるさまざまなトラブルの影響を受けるようになり、今では時刻表通りに来ない電車という評価になってしまった。
また渋谷駅始発で座って通勤してきたサラリーマンも、座れなくなってしまった。
しかも休日には、わけのわからない乗客が自分たちの街に押し寄せてくるようにもなった。
それらの結果、東急沿線のブランドイメージも悪化しつつある。
また東京の集客力自体、ピークを迎えようとしている。
東京都は2025年頃がピークで、その後は減少を始めると発表した。
主な原因は住民の高齢化である。
都区部における65歳以上の高齢者人口は、200万人の大台を超えた。
10年後、20年後を想像した場合、都区部での相続が大量発生することも容易に想像できる。
その結果、これらの相続不動産が売却されたり、賃貸に出されたりする。
これに加え、生産緑地制度に登録した農地の期限が2023年に到来する。
それにより農地の一部が宅地や賃貸物件として、不動産市場へ提供されるだろう。
つまり東京は「不動産買い手市場」へと変貌するのだ。
都内においても街間競争に敗れたエリアは空き家が増え、地価も大幅に下がるであろう。