相続不動産のことがよくわかる本

第1章 相続と不動産に関する状況

 

日本の相続税を取り巻く環境は、年々大変なことになっている。

 

高齢化社会にともない年間死亡者数が増加し、相続案件も増加の一途だ。

 

ところが増えているのは「相続」ではなく「争族」である。

 

「相続争いなんて一部の資産家に限った話だ」との認識は危険だ。

 

平成10年から30年にかけ、遺産相続に関する調停や裁判件数は1.5倍も増加している。

 

また相続問題に絡んで増加しているのが空き家だ。

 

相続したものの、共有名義で処分が難しい、買手がいないなど、さまざまな事由で放置されてしまっている。

 

さらには所有者不明の土地も増加した。

 

相続登記が義務化されていないため、所有者が亡くなった場合に関係性が希薄な親族の連絡などがわからず、お手上げとなるからだ。

 

こうした問題を解決するため、国は登記手続きの実質的な義務化へと舵をきった。

 

今後相続税の納税者も増加すると見られている。

 

経済情勢のタイミングで相続税は増減するなど、相続税に対する正しい知見を身につけておくことが大切だ。

 

 

 

第2章 相続不動産の基本を知る

 

■不動産の基本

 

民法上不動産は「土地及びその定着物」と定義される。

 

それ以外の物はすべて「動産」となる。

 

動産とは定着してない物、つまり動かせる物のことだ。

 

不動産は住宅地、商業地などの「種別」と、更地、建付地や借地権といった土地の利用状況や権利関係を表す「類型」で区分される。

 

区分された不動産は

 

・景気動向などの一般的要因

・不動産がある近隣地域の取引状況などを見る地域的要因

・対象不動産の個別的要因

 

以上の三点から鑑定され、最終的な価格が決定する。

 

 

■相続の基本

 

相続における基本だが、まず生前対策の基本は「認知症になる前」に行うことだ。

 

認知症発症後は判断能力が不十分となるため、本人に代わり法律行為を行う「成年後見制度」を利用することになる。

 

次に死亡後の相続に関する意思表示となるのが「遺言」である。

 

遺言には

 

・自筆証書

・公正証書

・秘密証書

 

の三種類がある。

 

遺言には法的効力がともなう。

 

しかし遺言執行者の同意がないなど一定の条件以外では、共同相続人の合意が優先される。

 

 

 

第3章 相続不動産の法律と税金を知る

 

不動産は、様々な場面においてたくさんの法律が関わる。

 

行政との関わりでは

 

・都市計画法

・国土利用法

・農地法

 

などがある。

 

要は土地が乱開発されたり、指定用途以外の建築物が建ったりしないよう規制するためだ。

 

また建築物自体の法律としては

 

・建築基準法

 

土地や建物の取引では

 

・民法

・借地借家法

・消費者契約法

・宅地建物取引業法

 

などがある。

 

では不動産相続に関わる法律だが、相続の大元となるのは民法である。

 

相続に関する民法(一般的には相続法)は令和二年に改正された。

 

改正ポイントとしては

 

・配偶者の居住権が新設

 

故人の配偶者が相続にともない、自宅に住めなくなったり、生活資金が確保できなくなったりする不具合を解消するため、配偶者が継続的に自宅に住めるようにした。

 

・預貯金の払戻制度

 

亡くなった人の葬儀費用や入院費用など、遺産分割協議成立前でも一定の範囲で預貯金の払戻しが可能になった。

 

・不動産に関わる税金

 

不動産に関わる税金も、その場面ごとに発生する税金がある。

 

・不動産相続時:相続税

・不動産賃貸時:所得税

・不動産譲渡時:譲渡所得税

 

などが代表事例としてあげられる。

 

 

 

第4章 相続不動産に関わる士業を知る

 

・司法書士

 

司法書士は登記のプロとして、次のような役割が期待できる。

不動産所有者が生前の場合

 

・遺言書の作成代行

・自筆証書遺言書のチェック

・相続登記や信託登記の代行

 

などの役割がある。

 

亡くなった後では

 

・遺言書の検証

・遺産分割協議書の作成

 

があげられる。

 

・弁護士

 

弁護士は法律のプロである。

 

隣家とのもめ事、家賃未納、遺産相続争いといったトラブル時に相談できるプロだ。

 

 

・税理士

 

相続税の相談、申告で頼りになるのが税理士である。

 

ただし不動産評価の専門家でないことを前提にしておく必要がある。

 

 

・不動産鑑定士

 

不動産は、相続路線価ベースより低い場合もある。

 

このような時、不動産鑑定士による時価評価があれば節税できる場合がある。

 

 

・土地家屋調査士

土地を相続した場合、土地家屋調査士による測量と境界確認が必要になる。

 

また建物を新築した場合、建物形状や面積を登記する「表題部」の登記は、土地家屋調査士の役割である。

 

 

・建築士

 

相続した建物を良好な状態に保つ上で、建築士の存在は不可欠と言える。

 

 

 

第5章 相続不動産の活用方法を知る

 

 

不動産所有者が相続させる場合にできることは、次のようなことだ。

 

相続予定の人の生活状況や意向を考慮し、相続させるか、生前に売却するかを考える必要がある。

 

不動産を相続させるなら、推定相続人がもめ事なく引き継げるよう考慮することが大切だ。

 

一方相続予定の不動産がある人は、登記記録や取得価格、負債の状況を事前に調べておくことが慌てないためには必要だ。

 

また相続したくない不動産は、所有者が元気なうちに不動産の処分をしてもらうことも検討すべきである。

 

もし不動産を相続した場合はどのような使い方が最も経済合理性が高いかを、判定しよう。

 

建物付で売却するか、更地にして売却するか、アパートなどを建築し収益化するかなどが考えられる。

 

その場合の基準の一つが収益不動産の利回りである。

 

駐車場や戸建の賃貸は、利回りが高いとは言えない。

 

利回りを検討した結果、借入金を上回る十分な利回りを得られない場合は売却が選択肢となる。

 

こうした判断を行うには複雑な金融知識も必要なので、専門家と相談することが望ましい。

 

 

 

第6章 相続不動産 七つのケーススタディ

 

この章では相続不動産をめぐる七つの事例を紹介しているが、本稿ではその内の3つを紹介する。

 

ケース1:

自分が死亡後、自宅には後妻が住み続けて欲しい。

 

だが将来は、息子にその不動産を引き継がせたいがどうすれば良いか。

 

対策:

配偶者居住権という新しい制度が創設された。

 

後妻が配偶者居住権を取得すれば、終身そのまま自宅に居住できる。

 

その後、息子へ不動産を譲渡できる。

 

 

ケース2:

区分建物の1階は母親名義、2階は自分名義だが土地の評価が高い。

 

母親死亡後の相続税が心配である。

 

対策:

区分建物で登記されている二世帯住宅を、一つの建物として「区分建物合併登記」をする。

 

そうすれば小規模宅地などの特例条件に合致し、土地の評価を80%減じることができる。

 

 

ケース3:

父親が地主だったが、遺言を残していない。

 

母親は他界しており、妹と不動産を公平に分けたいので共同で二分の一ずつ持ちたいと考えているが良いか。

 

対策:

共有はどちらかが反対すると、不動産の修繕もできない。

 

もめ事を避けるなら不動産を売却し、その資金を遺産分割協議で分けた方が良い。

 

 

 

第7章 頼れる相続不動産の専門家の選び方

 

一口に相続不動産を任せるにも、目的に応じて窓口は異なってくる。

 

例えば不動産登記は司法書士の独占業務であり、不動産の客観的評価を求めるなら不動産鑑定士である。

 

ただし士業へ任せる際、留意すべきことがある。

 

例えば遺産分割協議書の作成は弁護士、司法書士、税理士、行政書士が対応可能となる。

 

しかし、それら有資格者がすべて相続不動産に詳しいとは限らないということだ。

 

事務所のホームページで調べる他、面談を行い、相続不動産案件でどの程度の実績があるか確認することが大切である。

 

専門家の選び方だがポイントは、次の三点である。

 

・回答の際に根拠をちゃんと示す

・同業者のネットワークを有している

・相談者の話を最後まできちんと聞く

 

また、相続不動産を任せる専門家を決定した場合も、その専門家一人の意見だけですべて決定しない方が良い。

 

相続においても他の専門家から意見を求める「セカンドオピニオン」も、より良い判断を行う上で重要だ。