不動産投資・賃貸経営の成功戦略
第1章 資産形成の基礎
資産とはなにか。
資産の単位は何か。
不動産投資や賃貸経営を行っているのに、資産について理解していない人が多い。
不動産投資や賃貸経営は資産を形成する手段であって、目的ではない。
資産を理解するには「財務諸表」の理解が不可欠である。
・損益計算書(P/L)
一定期間の収入から費用を差し引き、利益を確定させることで所得税を計算するためのものだ。
損益計算書では売上から原価、一般管理費を引き算することで売上総利益や営業利益などを算出する。
不動産の購入を「売上原価」と勘違いする人がいるが、不動産は貸借対照表に記載されるので、売上原価にはあたらない。
一方賃貸経営は広告費や保険料、減価償却費、水道光熱費など、さまざまな一般管理費がある。
これらの把握が損益計算書理解の第一歩だ。
・貸借対照表(B/S)
一時点でのプラス資産からマイナスの負債を差し引き、残った部分を純資産にする表が貸借対照表だ。
貸借対照表を見れば、不動産購入だけでは純資産は増えないことがわかる。
流動資産の現金が減るし、借入すれば負債が増えるからだ。
・キャッシュフロー
実際のお金の流れを追ったもので、例えば損益計算書にある「減価償却費」などはない。
また借入金の元金返済額は、キャッシュフローで把握できる。
第2章 不動産投資の概要
投資で一番に考えるべきことがリスクとリターンである。
リターンとは「支払った対価」、リスクとは「不確実性」だ。
不動産投資は不確実性が株より低いため、ミドルリスク・ミドルリターンと言われる。
また不動産投資では「利益率」と「利回り」が重視されるが、一般的には初年度の収入に対する指標でしかない。
単年度の収益効率を図るものを「利益率」、投資期間全体での効率を見るものを「利回り」と定義し直せば、不動産投資の効率を正しく認識できる。
例えば「レバレッジ」だ。
レバレッジは初年度の利益率だけで効果を測定しても、断片的な見方になる。
不動産投資のレバレッジを考えるなら、複数年度の運用と売却損益まで考え、複利で計算することが必要だ。
複利とは元金に毎年加算される利子も含め、利率計算の対象とする計算式の考え方である。
不動産投資の「利回り」は単利、即ち初年度の投資額に対する利益率で捉えられがちだ。
例えば内部収益率(IRR)を複利で計算する場合は、家賃と売却価格の下落などを考慮することになる。
すると単年度(初年度)で見ていた収益率は低下する。
このように売却予定がなくとも売却を想定して複数年度、複利の計算を行えば大きなマイナスを見過ごすこともなくなる。
銀行金利と比較して有利な投資かも、正確につかめるようになる。
第3章 人口(購入・建築)
不動産物件の価値とは価格のことではない。
価格は売主の「言い値」に過ぎない。
不動産の価値とは「いくらで売れるかの価格」だ。
これはタイミングにも左右される。
ただし、「相場が高い時期は買わない」は安直だ。
何をすれば投資効率を高められるか考え行動することが最も大事である。
不動産特有のリスクを踏まえ、還元利回りがマイナスになっても対応できるシナリオを自分の中で作っておくことも重要だ。
リスクをコントロールするための有効な手段は、検討物件の調査である。
調査精度が高ければ高いほどリスクや収支の予測の精度が高まり、不動産投資の失敗を防ぐことにもつながる。
不動産の調査は
・物件の状況調査
・周辺環境の調査
・法的調査
・経済的調査
以上の4つに分類される。
調査を実施し、最終的な投資判断を行うには、物件が持つ正味の稼ぐ力となる営業純利益をベースに、IRRを算出することだ。
次にIRRと金利を比較し、プラスのレバレッジがかかることを確認する。
最後は税引き後のキャッシュフローとIRRを比較し、自分が目標とする投資効率か得られるかどうかで判断することだ。
第4章 保有期間
保有期間の具体的な目的は、営業純利益と税引き後のキャッシュフローを上げることだ。
そのために必要は保有期間の業務とは
・テナント賃貸管理業務
・運営業務
・建物管理業務
以上の三つがある。
・テナント賃貸管理業務
テナント賃貸管理業務とはテナントの募集、解約、原状回復までの全行程をさす。
空室率は営業純利益に大きな影響を与える。
特に「募集」は重要なポイントだ。
テナントとの良好な関係を築くことも大事である。
テナントが長く入居してくれれば空室率も低下し、募集広告費も抑制できるからだ。
・運営業務
賃貸経営を成り立たせるための経営管理業務が、運営業務と言える。
新築物件であれば、管理運営計画を立てること自体も運営業務の一つだ。
その他、テナントへの対応や所管庁への渉外業務、賃料請求、各種契約書の作成や保管など、運営業務は多岐にわたる。
・建物管理業務
文字通り、建物の維持、管理に必要な業務のことだ。
建物設備の点検、メンテナンスの他、周辺環境衛生や安全管理、エネルギー管理業務なども対象業務となる。
第5章 出口(売却)
物件の売却、購入、組み替えはポートフォリオ全体で考えることが大切である。
焦って売却だけを考えて売り急げば、IRRと金利差が大きくマイナスに傾いてしまうこともあるからだ。
また出口を考える上で忘れてならないのが「修繕計画」である。
例えば16年後に売却予定で、15年周期で外壁塗装を行った場合、塗装で恩恵があるのは購入者だけだ。
修繕計画は一度立てたら終わりではない。
売却時期を踏まえ、柔軟に見直すことが大切だ。
不動産を高く売却するには、仲介会社の選定も鍵になる。
選定ポイントは、依頼を受けた仲介会社が自社だけで抱え込まず、他の仲介会社から顧客の紹介を得やすい体制を築いているかだ。
賃貸物件と売買物件なら、売買物件を多く取り扱っている方が良い。
しかし売買に強いと言っても、買主探しに力を入れている会社と売却に強い会社の二つがある。
露出は前者が高いが、断然後者が良い。
収益不動産に強いかどうかも、物件の値付けなどで力の差が生まれるので重要だ。
第6章 ポートフォリオ
不動産投資の世界に踏み込むと、時価ベースでの純資産増加が目的であることを忘れがちになる。
純資産を増やすには、不動産中心の「総資産」で考えてはだめだ。
ポートフォリオ分析が重要である。
純資産1億円の人も、負債9千万円で純資産が1千万円の人は総資産1億円となってしまうからだ。
不動産全体で考えると今一つよくわからなくなる人は、
・その投資行動は時価ベースの純資産が増えるか
・ROE(自己資本純利益率)は改善されるのか
この二点をおさえるようにすると、間違った投資判断をしにくくなる。
また、リスク分散もポートフォリオを考える上で重要な視点だ。
分散できるリスクとは「市場リスク」、即ち市場に関係するリスクだけだ。
物件固有のリスクまでは分散できない。
しかし、不動産だけで市場リスクを完全に相殺するのは不可能と言える。
せいぜい不動産の価値が同時に大きく下がることを、避けるぐらいだ。
それには海外を含め、不動産購入エリアを分散させることだ。
不動産だけで考える必要もない。
株式など、複数の種類の投資を行うこともリスク分散につながる。