世界の富裕層に学ぶ海外投資の教科書
第1章 世界の富裕層はいかにして富を増やしているのか?
2020年末における全世界の家計金融資産は、約250兆ドルに達しているという。
この額は過去21年で最高で、コロナ禍でも富は成長したと言える。
意外なことに、日本の富裕層世帯数も過去最多となった。
しかしながら富裕層世帯数が増えても、貯蓄から投資への資産移行はすすんでいない。
日本の貯蓄偏重ぶりだけは、変わっていないようだ。
しかも富裕層の資産構成の大半は「日本国内の資産」という点も特徴的である。
これではリスク分散ができているとは言い難い。
もちろん外国に資産を保有した場合にもリスクはある。
外国の政情次第では、例えば他国への資金送金停止となったり、銀行預金が最悪封鎖されたりすることもあり得る。
そのような意味で、国内に一定程度資産を保有することは決して間違ってはいない。
ただし、海外には日本にない魅力的な金融商品がある事実は、理解しておくことが大切である。
例えば実質ただ同然で掛けられる12億円の死亡保障など、日本では考えられないほど有利な金融商品を海外なら購入できるのだ。
第2章 富裕層を取り巻く世界の環境
米国は民主党政権誕生後、大規模財政出動を行い、その財源を富裕層に求めようとしている。
その一方、金融大国スイスはプライベートバンクに対し、顧客が顧客居住国の法規制を遵守しているかどうか、厳しくチェックすることを要求するようになった。
富裕層の課税逃れとして、スイスのプライベートバンクに対する世界的批判が高まったためである。
富裕層は資産形成に加え、エステートタックス(資産課税のことで相続税、贈与税、固定資産税などが該当)の対策が、以前よりまして重要になっている。
しかしながら複数の国をまたいでの法務や税務に詳しい専門家は、残念ながら決して多くない。
また近年では国内、海外富裕層共に事業継承が大きな問題となりつつある。
例えばシンガポールでは相続税や贈与税は発生しないにもかかわらず、である。
海外富裕層は子供の教育に莫大な投資を行う。
積極的に留学させるのだが、留学した子供たちは海外の多様な価値観に触れ、親の事業継承ではなく、自分で新しいことにチャレンジしたいと考えるようになる。
その結果、事業継承時に親子間で摩擦が生じるようになったためだ。
第3章 富裕層だけが知っている「プライベートバンク」
プライベートバンクとは、一定金額以上の金融資産を持つ富裕層に特化したサービスを行う金融機関のことだ。
プライベートバンクの主なサービスは
・資産運用
・資産管理、保全
以上の二つに分けられる。
プライベートバンクを海外と国内で比較した場合、国内は金融商品に対する規制が多い。
一方香港やシンガポールは選択肢が広く、日本はかなり劣っている。
アジア系やスイス系のプライベートバンクの最低預入金額だが、約300万ドル(約3億8千万円)が目安だ。
プライベートバンクは顧客にあった「資産運用」と「資産保全」を、テーラーメイドで提供することがサービスの要と言える。
どのようにテーラーメイドするかだが、顧客がとれるリスクレベルと、どれくらいの利益を得たいかのターゲットリターンがスコア化した上で提供される。
これがポートフォリ化され、状況に応じてリバランス(組み換え)も行われる。
一方日本の信託銀行のサービスは、遺言書の作成や相続時の財産分割サポート程度に留まっているのが現状だ。
第4章 資産家一族に特化する「ファミリーオフィス」
ファミリーオフィスとは、富裕層が専門家のサポートを受けながら財産を守り、殖やす目的で設立された法人のことだ。
ファミリーオフィスには一つのファミリーの財産を管理する「シングルファミリーオフィス」と複数ファミリーを管理する「マルチファミリーオフィス」の二種類がある。
ファミリーオフィスは富裕層の企業経営にも関わりつつ、企業継承に備えて対策を行う。
投資銀行並みの大規模な不動産投資を行うファミリーオフィスもある。
ファミリーオフィスの特徴を業務ごとに整理した場合、次のようになる。
・経営:富裕層の企業戦略から商品開発まで、具体的な領域にまで専門家と共に踏み込む
・資産管理:キャピタル、インカムの両ゲインを税務管理含めて管理する
・相続:継承計画を立て、事業の永続的成長を支援する
・次世代教育:事業継承に向けた次世代の育成も支援する
第5章 世界の富裕層に学ぶ海外投資
投資はアセットアロケーションがやはり投資の王道だ。
アセットとは「資産」、アロケーションは「配分」のこと。
海外富裕層の投資もリスク分散したアセットアロケーションを、基本としている。
海外富裕層の投資支援で力を発揮しているのが、ヘッジファンドだ。
ヘッジファンドの戦略の一つにマーケットニュートラル戦略がある。
例えば株の買いと売りの両建てを行い、割安、割高になった場面のみ収益機会とする戦略だ。
この方法は市場の動きに左右されない優れた戦略と言える。
ただし、それらを発見することは近年益々困難になっており、これをAIで探り出すことも盛んに行われている。
また、海外保険を資産運用に活用することも富裕層の間でよく行われている。
日本の場合、相続税は現金で支払う必要があるが、不動産は簡単に分割・現金化できない。
その点で死亡保険金は現金である上、海外の保険であれば利回り4%の商品もある。
第6章 「トラスト」を使った資産の継承
トラストとは一言で言うと「信託」のことだ。
トラストには「委託者」「受託者」「受益者」の三者がかかわる。
・委託者:もともとの資産所有者
・受託者:委託者から切り離された財産の管理者で信託銀行等
・受益者:財産から生じる利益を受け取る者
トラスト利用にはこのようなメリットがある。
・相続が発生しない
トラストでは委託者の財産は受託者の所有となるため、相続が発生しない。
そのため相続にまつわるトラブルが起きない。
・多世代にわたる資産の継承指定が可能
トラストなら遺言では不可能な、数世代にわたっての継承者指定が可能となる。
・資産分散を回避できる
単純相続であれば、例えば相続人が多数いると会社の株式が分散してしまい、意思決定に支障が生じることもある。
トラストであれば分割を回避し、議決権を指定した監督者へ行使させることができる。
ただし、トラスト組成には高度な法務と税務の知識が必要だ。
第7章 富裕層のお悩み 法律編
海外に資産を持つ場合にまず行うべきは、資産のリストアップと準拠法の確認だ。
海外資産については準拠法がどの国になるか、どういう手続が必要か事前に把握しておくことが大切である。
また「プロペイド」を採用している国では、プロペイドを完了させておく必要がある。
プロペイドとは裁判所が任命した人格代表者による遺産の清算のことで、日本の会社清算の仕組みに近い。
次に、相続人の状況を把握しておくことも大切だ。
相続人が複数で、相続人同士の人間関係が疎遠または悪い場合、相続問題が起きやすい。
近年では、暗号資産で海外に金融財産を持つ富裕層も増えてきた。
財産内容が多様になるほど、相続人間の話し合いは難航しやすい。
日本国内での有効な対策は、できるだけ生前贈与を活用することと、遺言だ。
あるいは弁護士や司法書士に対し、財産管理や相続手続きを任せる民事信託という手もある。
第8章 世界経済の変化と今後の見通し
今後の金融市場は、デカップリングが進むと考えられる。
市場や国境を跨いで経済が動くことをカップリングと言うが、その逆がデカップリングだ。
ウイズコロナの生活様式を各国が前提としたことで、国境を軸に一定の経済的制限が生じるのは避けられないからである。
FRBは2022年に政策金利を大幅に引き上げた。
しかし米国はかつてないほどのインフレに悩まされ、歯止めがかかったとは言えない。
その対策として大規模財政出動を行い、中間層を支援することで財源を富裕層に求めようとしている。
日本も今後難しい経済の舵取りに迫られる。
富裕層へのさらなる課税も避けられないだろう。
富裕層は資産をいかに防衛するか、専門家などのサポートをフル活用し、戦略的に行動することが大切である。