不動産管理会社の設立・運営・移行

第1章 不動産オーナーが抱える悩み 

 

不動産オーナーは「不労所得者」というイメージが強い。 

 

しかし、多くの不動産オーナーは水面下でもがいている。 

 

固定資産税などの税負担も大きい。 

 

融資を引いて投資をしたら、借入返済や金利負担もある。 

 

しかも少子化による世帯数減少で、賃貸物件は空室が目立つ。 

 

不動産を相続した場合も片手うちわとはいかないものだ。 

 

相続税の負担が大変重い上、近年では物納という方法が制限されだした。 

 

相続対策を行うにも、様々なケースに応じた専門知識や対策が求められる。 

 

不景気の中、不動産建築業者は必死に売り込んでくる。 

 

しかしながら不動産の活用法は一つではない。 

 

様々な選択肢の中から何が最も有効か、不動産オーナー自身で選択しなければならないのだ。 

 

税理士に相談しようにも、相続税対策を専門に行っている税理士も限られている。 

 

もし放り出せるなら放り出したい・・・ 

 

これが多くの不動産オーナーの本音なのだ。 

 

 

 

 第2章 不動産管理会社設立のメリット・デメリット 

 

節税や長期収入の確保、不動産事業継承対策として、不動産管理会社の設立が挙げられる。 

 

不動産管理会社設立の具体的なメリットは次のとおりだ。 

 

・不動産オーナーに集中していた所得税を法人にも分散できる 

 

・家族に給与を支払うことで、さらなる税負担の分散・軽減が可能になる 

 

・所得を分散すれば相続税負担も軽減できる 

 

・小規模企業共済や社会保険に加入できる 

 

・役員に退職金を出せる 

 

・損失を9年間繰り越せるため所得コントロールしやすい 

 

ただし、法人を設立すると法人税の申告や負担が必要になる等、デメリットもある。 

 

また 

 

・相続の発生まで時間はあるか 

 

・相続税はいくらか 

 

・分散できる不動産所得があるか 

 

これらの結果次第では、不動産管理会社設立のメリットが生じない場合もある。 

 

個別具体的に検証することが大切だ。 

 

 

 

第3章 法人事業運営のバリエーション  

 

不動産の法人事業運営方式には次の3つの方式がある。 

 

1.管理委託方式 

 

管理委託方式とは、不動産オーナーが設立した不動産会社へ管理業務を委託することだ。 

 

不動産オーナーに代わって管理会社が 

 

・入居者の募集や契約、家賃の集金 

 

・建物の管理 

 

などを行う。 

 

不動産所得を減らせる効果があるが、管理料割合が高いと税務署に否認される場合もある。 

 

 

2.一括賃貸方式 

 

設立した不動産管理会社に、所有する物件を一括で借り上げさせるのが一括賃貸方式だ。 

 

管理会社側は実際の賃借人から家賃を受け取ることになる。 

 

そこから委託管理費を差し引き、オーナーへ賃料を支払う仕組みだ。 

 

不動産オーナーは一定のキャッシュフローを見込める点がメリットである。 

 

一方、支払う賃料と実際の家賃収入に差が大きくなると管理会社の経営リスクが高まる。 

 

 

3.不動産保有方式(建物保有方式) 

 

土地と建物の内、建物だけを法人が買い取り、地代を不動産オーナーへ支払う方式が建物保有方式である。 

 

建物が法人資産になるため、相続税の節税効果が見込める。 

 

ただし建物譲渡には消費税が発生するなどのデメリットもある。 

 

 

 

 第4章 事業運営方式の選択と移行の留意点 

 

事業運営方式の選択、変更にはそれぞれ障害やコストが生じる。 

 

運営方式選択や変更時に発生するコストや障害には、次のようなものがある。 

 

・不動産移転費用 

 

建物保有方式で建物を法人に移転させる場合、登録免許税や不動産取得税が生じる。 

 

 

・売却益への課税 

 

管理会社への建物移転は、管理会社への売却を意味する。 

 

そのため、売却益には譲渡所得税が課税される。 

 

 

・抵当権がある場合には交渉が必要 

 

銀行からの借入で不動産を得た場合、抵当権が設定されている。 

 

管理会社へ不動産を移すには、銀行との交渉が必要になる。 

 

 

・入居者や保守会社との契約変更 

 

不動産オーナーから管理会社へ所有権が移行されたら、契約の変更も必要となる。 

 

賃貸物件なら入居者や管理会社との契約などが対象だ。 

 

振込口座の変更も必要になる。 

 

法人事業の選択や移行は節税効果だけでなく、こうしたデメリットにも目を配った判断が大切だ。 

 

 

 

 第5章 会社設立の手順と運営管理の留意点 

 

会社の設立は簡素化されてきたが、必要書類は多い。 

 

手続きも煩雑なので、司法書士への委託をすすめる。 

 

法人設立までの主な流れは次のとおりだ。 

 

1 社名や資本金、代表取締役など基本事項を設定する 

 

2 会社印鑑を準備する 

 

3 定款や印鑑届出書など必要な書類を作成する 

 

4 資本金を払込む 

 

5 定款認証と登記申請を行う 

 

法人には株式会社や合同会社などがある。 

 

合同会社は出資者同士の合意が必要だ。 

 

もし出資者に相続人がいて、相続人同士が対立したら運営困難になる。 

 

注意が必要だ。 

 

株式会社の場合は株主選定が必要だが、配偶者が良いとは限らない。 

 

子供たちを株主にすると、一世代相続を先延ばしできる。 

 

また、不動産オーナーが会社役員になって給与を受け取ると収入分散効果は薄れる。 

 

親族を就任させた方が良い。 

 

状況や目的に応じた会社や株主の選定が、効果を高める上で重要である。 

 

 

 

 第6章 所得税・消費税の取扱と節税効果 

 

節税には、所得税と消費税の仕組みへの理解が大切である。 

 

・所得税 

 

不動産賃貸に関わる主な所得は不動産所得だ。 

 

不動産所得は「建物5棟、部屋室10室基準」で事業的規模かどうかを判定される。 

 

事業的規模に判定されないと利子税が経費に計上できなかったり、専従者控除ができなかったりする。 

 

従って5棟10室基準を満たすようにすべきだ。 

 

・消費税 

 

住宅の貸付や土地の貸付に伴う収入は消費税が非課税となる。 

 

ただし、駐車場収入は課税対象なので注意が必要だ。 

 

 

具体的な節税方法だが、次のような方法がある。 

 

・青色申告を行い、特別控除の適用を受ける 

 

・小規模企業共済に加入し、掛金の控除を受ける 

 

・所有不動産を移転させたり、不動産管理会社を活用し所得を分散する 

 

 

 

第7章 相続税・固定資産税の取扱いと節税効果 

 

相続時のポイントは 

 

・円満な遺産分割 

・納税資金の確保 

・上手な節税 

 

この3点だ。 

 

特に不動産は直接の納税資金とならない上、評価が複雑である。 

 

従って、早めの現状把握が大切だ。 

 

相続税の節税で有効な方法が不動産の活用である。 

 

空き地にアパートを建てて貸し出せば、土地の評価を下げることができる。 

 

加えて賃料も入るので、納税資金獲得にもなるからだ。 

 

ただし、空室が生じればローンの返済ができなくなるおそれがある。 

 

事前の事業計画や資金計画が大切だ。 

 

相続税は節税できても、固定資産税は節税できないと考えている人が多い。 

 

実は節税可能だ。 

 

例えば更地ではなくアパート等の住宅敷地なら、大幅に減税される。 

 

ただし用途が「住宅」と見なされることが重要。 

 

店舗の後ろに住宅があると、非住宅用として課税されることもある。 

 

不動産活用時の工夫と、行政への確認が重要になる。 

 

 

 

 第8章 民法改正で相続はこう変わる 

 

令和2年7月までに、40年ぶりに改正された相続の規定が施行される。 

 

改正には次のような項目がある。 

 

・配偶者の居住権等の強化 

 

残された配偶者に対する居住権が強化された。 

 

相続により突然自宅を明け渡す必要が生じても、配偶者なら6ヶ月間無償で居住可能となる。 

 

その他、自宅なら生前贈与の相続財産として見なされないようにもなった。 

 

 

・遺言制度の見直し 

 

パソコンで自筆証書遺言が作成できるようになった。 

 

 

・相続の効力の見直し 

 

法定相続分を超える継承部分は、登記など対抗要件がなければ、第三者へ対抗できなくなった。 

 

 

・相続人以外の親族への寄与 

 

例えば被相続人の看護や介護を一定期間行っていた親族なら、相続人に支払いを請求できる制度が新設された。 

 

 

 

以上のとおり、相続を大きく左右する改正項目が多い。 

 

特に相続予定がある方は、改正内容への理解を深めることが大切である。