不動産テック 巨大産業の破壊者たち
「不動産テック 巨大産業の破壊者たち」
1 ユニコーンを追って
ユニコーンとは、無数のスタートアップ企業の中からごく稀に生まれる、10億ドルの価値を超える未公開企業のパスワードとして、テック業界が名付けたものだ。
そんなユニコーンを求める投資家が、熱い視線を注いでいるのが不動産テック企業である。
では不動産テックとは何か。
新テクノロジーを通じ、不動産事業プロセスや市場、更にはそこに関わる人々の意識まで変革する、不動産ビジネスモデルの転換を目指す動きのこと言う。
2 大手が先を争うテック展開
不動産テックの牽引役として日本で存在感を示しているのが、三井不動産や三菱地所といった大手不動産企業だ。
VCと手を組み、国内外の不動産テック企業への投資や提携へ積極的に取り組んでいる。
同様に、米国でも世界最大の不動産サービス企業CBREや、そのライバル企業JLLもスタートアップを含めた不動産テック企業への投資を加速させている。
更に、大手企業による投資に加え、近年では不動産テック専門に投資を行うVCも設立され始めている。
こうした恵まれた資金環境は、不動産テック企業の急速な成長の源泉となっている。
3 弱肉強食の住宅ポータル
住宅価格の推定と公開を武器に、新興企業ZILLOW(ジロー)は米国ナンバーワンのリスティングサイトへと上り詰めた。
ジロー躍進の原動力となったのがMLSの情報開示だ。
MLSとは不動産事業者間の売買物件情報交換ネットワークで、長年の慣行で非公開だったが、米司法省の指導によりネット上で閲覧開示が実現した。
この情報に独自の価格推定システムを組み合わせることで、ジローは一気に成長を遂げることができた。
しかし、個人の住宅価格の推定値を公開するサービスは物議を醸し、不動産事業者達が連携して情報囲い込みを行うなど、反発も招いてしまった。
現在、同社の成長は岐路に立たされている。
4 デジタル仲介の勃興
米国の不動産仲介は一人のエージェントが内見から契約まで、一貫して担当するのが通例だった。
それに対しデジタル仲介とは内見、申込、契約とプロセスを細分化し、エージェントの能力を得意分野に専念させることで、人件費配分の効率化を実現した仲介手法だ。
デジタル仲介の代表的企業として、レッドフィンがあげられる。
同社は歩合給だったエージェント報酬を、基本給支給や顧客の評価で報酬が支払われる仕組へ転換し、帰属意識と顧客サービスの両方の向上に成功した。
また、3Dアバターを利用することで実店舗をもたずにデジタル仲介サービスを提供しているexpリアリティ社も、急速に売上を伸ばしている。
5 生き残りを模索する民泊ビジネス
一般の民家に観光客を宿泊させる民泊ビジネスは、エアビーを筆頭に日本で飛躍的な成長を見せていた。
しかし既存ホテルや旅館業界、共同住宅施設の管理組合などの反発を招き、国土交通省は民泊を規制する新法を導入。
その結果、個人ホストは急減した。
一方民泊の普及で先行していた米国でも、民泊が社会問題化し、規制する自治体も現れ始めた。
そうした中、エアビーは自ら民泊専用の物件開発に乗り出したり、ビルやマンションを一棟単位で民泊物件にしたりするなど、規制を回避しつつ、生き残りをかけた取組みを始動させている。
6 ウィーワーク狂想曲
コワーキングオフィス市場において急成長を遂げたウィーワークは、日本でもその存在感を示した。
わずか1年で2,800席を確保し、全国拠点数は14を超え、同社の急拡大に不動産業界は驚異を感じていた。
最短1ヶ月の賃貸ビジネスモデルの登場で、テナントによる長期安定収入が脅かされ始めたからだ。
しかし、ウィーワークの事業は早くも綻びが生じている。
調達資金に対する収益率が悪く、赤字が急拡大しているのである。
テナントサービスを重視するあまり床面積あたりの収益率が悪い上、テナントが成長と共に一般賃貸ビルへと移行するためだ。
更に、日単位でオフィスを間借りできる競合なども台頭しており、将来性は盤石とは言えない。
7 クラウドファンディング百花繚乱
個人投資家からの資金調達手段として、注目を集めているのがクラウドファンディングである。
不動産投資は、流動性の低さや金額規模の大きさから、個人投資家は手を出しにくかった。
ところがクラウンドファンディングの登場により、不動産投資は”私募型のREIT”として、個人投資家の間で急速に広まり始めた。
クラウドファンディングで先行している米国では、不動産投資の欠点だった流動性の低さをカバーすべく、投資家間で投資口を事由売買できる新たな仕組みまで登場している。
8 データウオーズの行方
不動産データベースをめぐる業界間の攻防も、不動産テックの動向を探る上で見逃せない。
不動産業界の情報透明性の低さに着目し、電話やFAXといったアナログ的手段も交え、賃貸物件のリアルな成約事例を会員向けに提供するコンプスタックの登場は、業界の透明性向上に一役買った。
同社の登場で、不動産オーナーは情報を隠してのテナント契約が困難になると共に、不動産データの先駆け企業、コースター社の地位も脅かし始めた。
そこでコースター社は、自社データが盗用されているとの主張を裁判で訴える方法で反撃。
勝訴により、老舗企業はその権益を取り戻しつつあるが、不動産データ分野では多様なプレーヤーが続々登場しており、同社の地位は決して盤石とは言えない。
9 見果てぬIOT住宅の夢
ITを活用して住空間の快適性を高める、いわゆるIOT住宅で注目すべきはGAFAの動向だ。
アマゾンのアレクサをはじめ、アップル、フェイスブック、グーグル各社はスピーカーに話しかけるだけで、オンラインサービス利用や家電操作ができるスマートスピーカー製品を投入し、IOT住宅市場へと揃い踏みの進出を遂げた。
これらGAFAを迎え撃つのは日本の住設、家電のトップメーカー、パナソニックだ。
同社はスーマートスピーカー市場に、グループの総力をあげて取り組もうとしている。
なぜなら、勝者がリビングルームでのハブとなるデバイスを握るとの認識があるからだ。
10 ブロックチェーンが変える取引の未来
ブロックチェーンは仮想通貨の技術と思われがちだが、ブロックチェーンとは改ざんを不可能にする電子データの認証技術のことで、仮想通貨がそれを用いてるに過ぎない。
このブロックチェーン技術が、不動産取引を大きく変えようとしている。
具体的には登記、契約、決済の場面での活用で、実現すれば国境を超えた不動産取引が安全に、スピーディーに実現する。
近年では、不動産を裏付け資産とした金融商品として「セキュリティトークン」を販売する企業まで出現した。
こうした流れは、不動産証券市場でも加速すると見られている。
11 テック雇用が生み出す新・企業城下町
グーグルは世界初進出となった日本で、賃貸床面積を拡大させている。
同社は、渋谷ストリームの全オフィスフロアを賃貸したと発表。
これは従業員数の倍増を意味する。
またテック業界の日本の雄、楽天やヤフーも賃貸床面積を順調に拡大させているが、こうした勢いは日本に限らない。
米国ではTAMI(テクノロジー、広告、メディア、情報の各頭文字をとった略称)に属するテック企業の進出が、錆びれつつあった郡部の人口を急増させたり、人気エリアに変えたりする現象も生まれているのだ。
12 自動運転で二兎を追うグーグル
巨大テックのグーグルは社会問題解決に向け、自動運転車開発とそれを柱とした都市開発ノウハウの蓄積という二兎を追っている。
自動運転の普及は、ドライバーを不要とすることで移動コストを削減する。
また顧客探しのためのタクシー走行減少による渋滞の緩和、更には常時運転も可能なことから駐車場の減少にも役立つ。
加えて公共交通機関のルート外となっていた、小規模都市への移動もスムーズになる。
つまり自動運転は大都市の過密問題、地方都市の人口減少問題の両方を解決する有力な手段となり得るのだ。
この勝者になるべく、アリゾナではグーグルはじめ、大手テック企業による自動運転の実証実験が加熱している。